毎年1回のワクチンがわんちゃんにとって必要かどうか?
この答えは、おうちのわんちゃんがどんな環境で生活しているかによって異なります。
例えば普段からお散歩に行くのか、たくさんのわんちゃんと一緒に生活しているのか、自然豊かな地域なのか、ドッグランに行くことがよくあるのか。
今回はこんな疑問に対して、WSAVA(ワサバ)と呼ばれる世界の獣医師会や大学教授などが参加する団体の発表をもとに説明いたします。
ワクチンって何?
動物の体には、「免疫」と呼ばれる病原体と戦うためのしくみがあります。
免疫があることで、病気になりにくくなっています。
どうぶつの体は、一度体内に入った病原体をしばらくの間覚えておくことができます。
病原体を覚えて戦いの準備をしておき、次に似たような病原体が侵入してきた時に、より強い免疫で対抗する機能があります。
この機能を利用したものがワクチンです。
ワクチンは病原体の毒を弱めたもの、もしくは無毒化したものを接種することで、安全に免疫を獲得することができるようになっています。
ワクチンをうっておくと、病原体が体の中に入ってきても病気にかからなくしたり、病気にかかっても重症化することを防ぐことができます。
ワクチンはいつから必要?
免疫には、病原体とたたかうための主戦力がいます。
この主戦力が抗体です。
生後すぐは、母親からもらった抗体(移行抗体)により子供は病原体から守られています。
この移行抗体は生後6〜8週くらいでだんだんと減少していき、16週齢頃では感染を予防できるレベルを下回ってきます。
感染を防ぐことができなくなる前に、ワクチンを接種して免疫力を高めてあげる必要があります。
しかし、この移行抗体はワクチンによる免疫獲得を邪魔する働きもあります。
ワクチン内の弱毒化もしくは無毒化した病原体に対する抗体を、体が覚える前に移行抗体がやっつけてしまうからです。
ワクチン接種時期が早すぎても十分な効果が得られないことがあるということです。
どのくらいで移行抗体が減っていくかには個体差もあります。
そのため、通常子犬のワクチンは生後6〜8週齢で1回目のワクチン、その後は2〜4週毎で16週齢以降までワクチンを接種することが推奨されています。
子犬の一連のワクチンが終了したら、一般的な動物病院では6ヶ月齢〜1歳前後で次のワクチン(ブースターワクチン)を接種します。
これは免疫力の強化と、いずれかのワクチンに体が反応できなかった子に対してあらためて免疫力をつけてもらうために必要なワクチンです。
16週齢以降でのワクチンまでに、もし万が一免疫がつかなかった子が、1歳になるまで免疫力がない状態で過ごさないようにするためです。
予防できる病気は?
わんちゃんにワクチンをうつことで予防できる病気は次のとおりです。
- 犬ジステンパーウイルス感染症
- 犬パルボウイルス感染症
- 犬アデノウイルス2型感染症
- 犬伝染性肝炎
- 犬パラインフルエンザウイルス感染症
- 犬コロナウイルス感染症
- レプトスピラ症
この中で症状が重度になりやすく、致死的な病気に対するワクチンがコアワクチンと呼ばれています。
犬のコアワクチンは、犬ジステンパーウイルス、 犬アデノウイルス2型および犬パルボウイルスの3種類です。
犬アデノウイルス2型のワクチンをうつことで、犬アデノウイルス1型が引き起こす犬伝染性肝炎も一緒に予防することができます。
その他が日本で主に入手可能なワクチンに含まれており、ノンコアワクチンと呼ばれています。
パルボウイルスなどは環境中で1年以上生存し、重篤な場合は数週間で死亡することもあります。
そのためコアワクチンは基本的に全頭ワクチン接種することが推奨されています。
年に1回うつ必要がある?
この正解は1つではありません。
わんちゃんの生活環境や習慣に応じて、個別に考えていくことが重要です。
WSAVAのガイドラインでは次のように推奨されています。
- コアワクチン:1回の注射で比較的長く免疫力が持続するため、3年以上たって免疫力がなくなってからの追加ワクチン推奨。
- ノンコアワクチン:必要なものに限定して接種。免疫力は長くは持続しないので1年に1回のブースターワクチンが必要。
すべてのワクチンをむやみに毎年打つことは、WSAVAでは推奨されていません。
もっと言えば、コアワクチンだけが必要な子に限れば、体に免疫力が残っているかの検査(抗体価検査)を実施したうえで、必要に応じてワクチン接種することが推奨されています。
ではノンコアワクチンはどういったわんちゃんに打たないといけないのでしょうか?
例えば、パラインフルエンザウイルス感染症は感染力の非常に強い呼吸器の病気ですが、多数のわんちゃんが集まっているペットショップや保護施設などでは感染するリスクが特に高いです。
レプトスピラ症は河川周辺などの湿った環境で感染しやすく、大雨による増水後などで生息域が広がった後に数ヶ月間生存することもあるため注意が必要です。
- 多数のわんちゃんが集まる場所に行くことが多い
- 屋外、特に河川周辺にお散歩にいくことがある
これらに該当するのであれば、必要なノンコアワクチンを含んだ注射を1年に1回実施したほうが良いでしょう。
アレルギー反応が起こる割合は?
わんちゃんの場合アレルギー反応が起こる割合は10,000頭中30頭程度と言われています。
その多くは一過性の発熱や、嗜眠(放っておくと眠ってしまう状態)、かゆみや顔が腫れるなどといった症状です。
これらの症状はおおむねワクチン接種後から24時間くらいで発症することが多く、単独で命にかかわるようなものではありません。
しかし、中には接種後数分から1時間以内(接種5分後くらいが最も多い)で、急激にぐったりしたり、呼吸が異常に早くなったりする場合があります。
こういった反応がみられた場合、早急な対応が必要となりますので、すぐに獣医さんに相談するようにしましょう。
おわりに
日本国内で使用されるワクチンは、コアワクチンについても本当に3年間免疫が持続するのかメーカー側の保証がないものもあります。
また、ペットホテルやトリミングサロンなど、利用している施設によっては1年に1回のワクチン接種を求められる場合があります。
自分たちで毎回抗体価検査を実施して確認する、ということができない以上、自分の施設での集団感染を防ぐためにはしょうがない側面もあると思います。
現実的には何年ごとにワクチンを実施すべきかはお住まいの地域やわんちゃんそれぞれの状況によっても獣医師の判断が異なってきます。
- 完全室内飼育で屋外に出ることがない
- ワクチンによるアレルギー反応があった
これらに該当するわんちゃんではワクチンの再接種を遅らせたり、ワクチンを打たないほうが良い場合もあります。
ワクチンを打つか、接種を遅らせるのか、それぞれのメリットやデメリットをしっかり比較しましょう。
そしてかかりつけの獣医さんと一緒に、わんちゃんの健康を最優先に考えて選択していきましょう。
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